座談会「歯科技工士の災害医療を考える」
〜国際医療技術財団の災害医療研修コースを受講して〜
未曾有の大震災であった東日本大震災から2年が経過しました。この間、防災に対する人々の意識は高まり、また社会の動きも早くなっているように思います。東京都では、事業者に対し食料の備蓄等を求める条例が2013年4月より施行されました。日技ではそれらの順守も含め、災害対応マニュアル等を早急に策定すべく、現在、検討を続けています。
今月の特集では、公益財団法人国際医療技術財団が災害医療に関する専門知識を有する医療従事者の育成を目的に実施している「災害医療研修コース」の受講者による座談会を開催し、組織としてはもちろん、歯科技工士個々人がどのように災害対策に取り組んでいけばよいか、活発な意見交換をしていただきました。
出席者
日本歯科技工士会
大西 清支 専務理事
伊集院正俊 常務理事
吉田比呂志 常務理事
西澤 隆廣 理事
神奈川県歯科技工士会
木下 勝喜 常務理事
進行
日本歯科技工士会広報委員会
綾部 一則 副委員長
◆災害医療研修コースを受講して
―― 東日本大震災の発生以降、災害に対する意識が社会全体で高まっていると思います。本日は公益財団法人国際医療技術財団(JIMTEF)の災害医療研修コースを受講された方々による座談会を行い、読者の啓発につなげるとともに、日技が今後、災害対策にどのように取り組んでいけばよいかということについてお話をうかがいたいと思います。
まず始めに国際医療技術財団について、大西専務からご紹介いただけますでしょうか。
大西 国際医療技術財団は、貧困や自然災害などを背景に、今なお世界中の多くの人々が満足な医療サービスを受けることができない状況を改善すべく、保健医療分野の課題解決に必要不可欠な医療技術の振興、医療技術者の育成、医療サービスの改善に取り組んでいる国際協力NGOです。医療系のさまざまな団体の方々が役員を務めており、日技の古橋会長も評議員の一人です。
事業内容としては、研修医の受け入れ、専門家や調査団の派遣、国際医療協力フォーラムや国際セミナーの開催、災害医療研修の実施などを行っており、そのうちの災害医療研修コースについて、昨年度と今年度の2回にわたって本会から3名ずつ派遣し受講したという経緯です。
―― 受講された感想をお聞きしていきたいと思います。まず2011年に開催された第1回災害医療研修コースは、東京都技会長でもある日技の西澤理事、同じく東京都技の石川副会長、神奈川県技の木下常務理事が受講されました。石川副会長は本日、会務のためご欠席ですので、西澤理事と木下常務にお聞きしたいと思います。
西澤 自分たちが災害時にどのような活動ができるかを議論できたことが非常に良かったと思います。
トリアージタグの扱いに関する講義も聞きましたが、われわれ歯科技工士がトリアージタグをつけるかというと、それは現実的には判断が難しいでしょう。東京都技では大規模災害時の即時義歯作製マニュアルをつくり、実技講習会を開催していますが、やはりある程度状況が落ち着いた段階で、義歯をどうするかという問題に関わっていくことが、われわれの一番の役目だと思います。
また、組織論に関する講義も非常に印象に残っています。一日の講習の中でもかなり大きなウエイトを占めているように感じました。日技としても都道府県技としても、非常に有意義な研修でした。
木下 西澤理事がおっしゃるように、歯科技工士がトリアージタグを扱うというのはなかなか難しいと思います。歯科技工士の一番の役割は、やはり義歯をつくるということですから、それは災害時の超急性期よりも急性期以降において特に求められることだと思います。都技が実施している即時義歯作製の実技講習会は私も受講したことがありますが、非常に興味深かったです。
そして亜急性期以降は、現在いくつかの県技で行われている義歯清掃活動が非常に役に立つと思います。私も神奈川県技でこの活動に取り組んでいますが、東北の被災地を訪問した際、避難所で歯ブラシが配られなかったという話を聞きました。「そんなことは後回しだった」と。
その話を聞いたとき、まるで口腔衛生が置き去りにされたかのように感じましたし、もっと近県の方々がこうした活動をできるような体制があれば、もっと良かったのではないかと思いました。
神奈川県技では、助成金や寄付金をいただいたおかげで活動ができたのですが、その資金がなければ被災地に行くこともできなかったわけです。今後は東南海地震の発生も懸念されていますから、西日本をはじめとして多くの県技にこうした活動を広められればと思っています。
日技から情報を広めることで会員一人ひとりに意識付けができたり、あるいは学校教育の中に組み込むことで災害に対し高い意識を持った若者がこの業界に入ってきてくれることで、必要なときにすぐに適切な行動を取れる体制ができるのだと思います。今回、JIMTEFの災害医療研修を受講して、改めてそう感じました。
―― 2012年の第2回災害医療研修コースは、本会の大西専務、伊集院常務、吉田常務が受講されました。受講した感想をそれぞれお聞かせください。
吉田 研修に参加して最初に感じたことは、医科系職種の団体においては、医師や看護師を中心とした災害時派遣医療チーム(DMAT)に対する認識や考え方がかなり進んでおり、まとまりがあったということです。
私は以前から地域の自主防災組織に関わっていまして、DMATを受け入れる立場で防災活動に取り組んでいるのですが、今回の研修に参加した医科系職種の団体は、被災した地域へ複数の職種がチームを組んで出かけて行き、それぞれの職能を生かしつつチームとして支援するということに非常に力を入れています。
一方で歯科業界はというと、われわれ歯科技工士会は当然ながら歯科医師会との連携が前提としてあるわけですが、これまでそうした活動にはあまり参加したことがありませんし、歯科とDMATの関係に対する認識も十分とは言えません。今回の研修を受講して、あらためてそのことを痛感しました。
講習の内容は非常に具体的で、阪神淡路大震災や東日本大震災の現場の中で、災害直後から中期、長期にわたっての活動の状況が報告されました。想像していた以上にレベルが高い内容で、非常に勉強になりました。
そこで感じたのは、災害時医療活動に参加するバックボーンとして、まずは基礎知識を身に付けておく必要があるということです。日技でも現在は生涯研修として、各地域で救急救命の講習会が行われています。多くのところは半日コースで、上級の一日コースを行っている県技はまだ少ないですが、まずは一人ひとりがそうした講習会に参加して、救急救命の基礎知識を学ぶ必要があるでしょう。その上で、このJIMTEFの研修コースなどで災害医療を学び、組織としての体制を構築していくべきだと思います。
さらに、組織としての体制を考える上では、歯科技工士会として行政などからの支援要請にどのように応えていくかということとは別に、災害発生時にこの歯科技工士会館と、そこにいる人をどう守るかということも考える必要があります。
実際に東日本大震災のときは、全国から代議員が集まっていましたし、職員も全員出勤していましたが、あのときは全員、帰してしまいましたよね。しかし現在は、帰宅困難者は無理に帰さないという考え方が主流になっています。そのためには当然、3日分程度の食料や水を備蓄しておかなければいけません。こうしたことにも今後、具体的なマニュアルをつくり、早急に取り組まなければいけないと感じました。
伊集院 多くの医療専門職の方々の活動をお聞きし、また一緒にディスカッションをさせていただいて、とても勉強にもなりました。
一言で災害と言っても、いろいろなケースがあると思います。阪神淡路大震災のように周りの大都市圏からすぐに救援に駆けつけられるケースもあれば、東日本大震災のように広範囲にわたり、しかも放射能という特殊な問題が発生するケースもあります。
そのようなことも踏まえた上で、例えば関東においても30年以内に70%の確率で地震が発生するということがすでに言われているわけですから、組織としてはもちろん、個々人が基本的な知識を真剣に学んでいく必要があるということを、つくづく感じました。
トリアージについても、歯科技工士は他の医療専門職ほどではないにしても、一般の方から見れば医療に近い存在だと思われるかもしれません。そのような方々の中に置かれたら、「歯科技工士はトリアージは関係ない」などとは言っていられなくなるかもしれません。われわれがやらなければいけないこともあるかもしれませんので、そうした知識も勉強しておく必要があるのではないかと感じました。
それから組織論については、これも細かく分けていくといろいろあるのですが、組織として動く際に重要なことを一つひとつ検討して整理していくことで、突発的に発生する災害時に活用することができるのだと思います。
大西 私が参加した第2回目は、11団体、53名の方が受講されていましたが、実際にその中に入って話を聞くと、歯科技工士がこれまでいかにそのような場に関与していなかったかということを痛感させられました。そして、歯科技工士にはどのようなことができるのかということを改めて考えさせられた2日間でした。
しかし、歯科技工士が単独で災害場所に出向いて行ってできることは限られていますので、やはり歯科医師会や歯科衛生士会と連携しながら対応することが重要です。先の東日本大震災の際には、歯科医師会の先生方はご遺体の歯科的所見採取による個人識別によって身元確認に尽力されましたが、われわれ歯科技工士も義歯刻名などを通して貢献できることがあるのではないかと思っています。
これから歯科医師会を中心に、各種団体や病院、学会が集まって、歯科版DMATの構築に向けた協議を進めるという話もあります。そこにわれわれも参画するとともに、組織としての災害対策をしっかりと固めていかなければいけないと考えています。
◆歯科界全体としての支援体制が必要
――日技は今後、災害対策にどのように取り組んでいけばよいか、あるいは歯科技工士一人ひとりに求められることは何か、皆さんのご意見をお聞かせください。
吉田 先ほど言いましたように医科関係はDMATがあり、かなり組織化が進んでいたように感じました。歯科界ではこれから立ち上げに向けた話が進められるそうですので、歯科技工士がどのように関わっていくのか、まずは歯科医師会としっかり話をする必要があります。歯科技工士は単独ではなかなか動きにくい職種ですから、他の歯科専門職と一緒にチームを立ち上げて、その中でわれわれの職能を活かすことが重要です。
また、地域で防災関連の活動をしている方もたくさんいらっしゃると思いますから、その方々が活動できる場をつくっていくということも必要ではないかと思います。
木下 日技の関係者で、JIMTEFの災害医療研修コースを受講したのはわれわれ6人しかいませんから、まずは私も含めて、学んだことを少しでも広めていく意識を持つことが大切だと思います。
例えば各県技で行っている生涯研修の休憩時間に案内をするのもいいと思います。生涯研修には会員だけが来ているわけではありませんから、日技がこういう活動をしているということを周知するのは有効ではないでしょうか。
実際に私が活動していて思うのは、若い人はボランティア活動が好きだということです。好きという言い方が正しいかどうかは分かりませんが、お金がないので汗をかいて誰かのために働きたいという気持ちは強いと思います。
神奈川県技ではイベントのたびに、私が東北の被災地を訪問した際の動画を流して話をするのですが、「今度、東北に行きます」と言うと、2日で定員の40人が埋まってしまうほど意識が高いです。会員ではない人も多いですが、この活動をきっかけに入会した方も7名います。実際に活動することが組織拡充にもつながるのではないかと思います。
ですから、日技がこういう活動に力を入れて取り組んでいるということを周知するのは、業界全体の盛り上がりにつながると思いますし、組織力の強化にもつながっていくのではないかと思うのです。
三重県技では義歯清掃活動を実施されていると思いますが、そうしたことは若い人たちはツイッターやフェイスブックにどんどん載せていきますから、全国にその情報が広まります。そのように広まることで、より良いアイディアも生まれてくると思います。
大西 三重県技では、県内各地で要望のあったところを中心に義歯清掃を行っていまして、神奈川県技と同じように若い方々が率先して参加しています。神奈川県技が被災地を訪問したことにもすぐに反応し、なぜ三重県技は動かないのだという意見をいただいたほどです。
そういう意味では、災害時における歯科技工士の役割を考える上で、今のところは地ならしができているのかなという思いはありますが、いずれにしても単独では動けませんので、やはり歯科医師会の先生方との連携が非常に重要だと思います。
吉田 そうですね。DMATの中にデンタルチームを位置づけるにしろ、歯科版DMATを構築するにしろ、組織化が非常に重要です。
専務がおっしゃったように、歯科技工士は歯科医師との連携が大前提ですから、現状では歯科技工士が単独で医療関係の支援をするのは難しいでしょう。一般の人と同じような立場でボランティアに行くしかありません。そのランクをもう一つ上げて医療従事者として支援できる形にするためには、チームで対応する体制を整える必要があります。
そうすれば、ボランティアの受け入れ先も個人で探すのではなく、組織対組織での対応が可能になるでしょう。日技がボランティアの受け入れ先を紹介できるような体制ができれば、マッチングにも貢献できるかもしれません。
木下 私が最初に東北に行ったときには、コーディネーターは本当に見つかりませんでした。被災3県の歯科医師会や歯科技工士会にも連絡したのですが、その人たちも被災者ですから、まずは自分たちの生活を立て直すことが第一です。そのような状況にあるときに「団体で行く予算もつくったので、受け入れ先がないか探してもらえませんか」と依頼をしても、対応していただくのはなかなか難しかったです。
たまたま民間のマッチングサイトで、仮設住宅を管理しているような方に巡り合えて、「来てください」と言っていただいたので行くことができました。
伊集院 震災から2年がたった今でも、地元の歯科技工士会のような団体がなかなか活動できていないという話を聞きます。まだ避難されていたり、経済的に回っていかなかったりと理由はさまざまだと思いますが、組織としての長期的な支援のあり方を検討する上では、現地の声をいかに集められるかというのは重要なことだと思います。
吉田 ボランティアの方というのはやる気で溢れていますが、ただやみくもに行ってもかえって邪魔になってしまう恐れもあります。2日くらいたてば現地で受け入れ先が組織され始めてきますから、どのように参加するかという形も示してあげる必要がありますね。
木下 ある歯科医師の先生から、道具を背負って行ったけれど受け入れてもらえなくて、結局がれきの処理をして帰ってきたという話を聞いたことがあります。歯科技工士の仲間も、単独で行って受け入れてもらえなかったと言っていました。
2月に都技が行ったときも最初は受け入れ先が見つからなかったそうですので、日技として、そのようなときのためのルートづくりを今からしておくことも必要ではないでしょうか。
例えば、義歯清掃をすることによって誤嚥性肺炎の予防につながるということを、あらかじめ各県行政などに示しておけば、今後、災害が起きた際に避難所や仮設住宅で受け入れてもらえるようになるのではないでしょうか。
大西 その意味では、やはりDMATなり歯科版DMATなりにどう関わっていくかということだと思います。DMATは医科を中心に組織されていますので、歯科医師の先生方が入っているのかどうか分かりませんが、そこにわれわれの技術をPRしていくことも必要かもしれません。
木下 一つの県技だけでは活動できないのであれば、例えばブロックごとであったり、あるいは近隣の数県で災害支援のための体制をつくってもいいかもしれませんね。
西澤 緊急時の体制づくりとしては、歯科技工士会の会員かどうかという垣根はないほうがいいですね。緊急時には非会員の方とも行動をともにするというシステムをつくる。そのように非会員と連携をとることは、有事の際以外でも大きな意義を持つのではないかと思います。
それから義歯清掃についてですが、誤嚥性肺炎は日常でも死亡原因の上位に来ています。医師の先生方も、入れ歯が一つの原因になっており、口腔内の衛生環境を良くすれば改善されるのではないかということも言及されています。
義歯清掃はどこまでの人がやってよいのかというのは微妙なところがありますが、それは絶対に歯科技工士であるべきです。歯科技工士が作った物が汚れたわけですから、それは歯科技工士自身が一番分かります。
ですから、われわれが作った物はわれわれが清掃するのだということを、どんどん発信していった方が良いのではないかと思います。
吉田 ただし、われわれが直接そういう活動をするのは無理がありますから、どうしても歯科医師の先生方と一緒に活動していくことが前提になります。したがって、地域の歯科技工士会と歯科医師会との連携を良い形で保っていくことが重要です。
歯科版DMATの構築についても、歯科医師会や歯科衛生士会との連携が不可欠ですから、ぜひ前向きに進めていってほしいと思います。
木下 早く歯科版のDMATのような組織ができるといいですよね。
吉田 DMATは本当にうまい連携だと思います。作業療法士や柔道整復師も、ボランティアで疲れた方をケアするという役割は非常に有効です。それぞれの役割を考える上で参考になるのではないでしょうか。
歯科業界はかなり遅れていると言わざるを得ません。私自身、この研修に参加して非常に勉強になりましたから、毎年誰かが受講して、災害医療に関する知識を持つ人を増やすことが必要だと思います。
◆基礎知識+歯科技工士ならではの知識
伊集院 いろいろな医療専門職の方と実際に生でディスカッションしてみると、各県技で行われている生涯研修も、こうした形態で行うのも有効なのではないかと思いました。講義を聞いているだけでは、どうしても一方通行になってしまいますから。
吉田 生涯研修などを通して、個々人が災害に対する基礎知識を身に付けておくことは大切ですね。その上で、日技が組織として歯科版DMATなどに参加することになったら、各地域ごとに基礎知識のある方に登録していただく。個々人がベースをつくった上で、組織づくりに参加するということです。
木下 先ほど少し話に出ましたが、東京都技が作成した『大規模災害時の即時義歯作製マニュアル』は全国に広めたいですね。災害時に緊急でつくる義歯は、それほど長い期間もたなくていいわけです。2〜3日の間、支援物資の食料が食べられる程度のものでいいわけですので、それこそ人工歯なしでつくってしまってもいいのではないかと思います。
これはぜひ全国的に広めてほしいです。歯科技工士という職業の魅力を広めることにもなるのではないでしょうか。歯科技工士学校の実習で行うのもいいと思います。
西澤 即時義歯作製の実技講習会は東京都の委託事業として、東京都技の生涯研修で実施しています。東日本大震災もそうですが、その前の阪神淡路大震災のときから、入れ歯をなくして困ったという方が大勢いらっしゃって、即時義歯の重要性が指摘されていました。
そこで、この分野に関する専門知識をお持ちの、東京医科歯科大学大学院の中久木康一先生にご協力いただいてマニュアルをつくり、さらに実技講習会を年に3回開催しています。
この即時義歯は非常に簡単で、講習会を1回受講すれば誰でもすぐに作れるようになります。今後は実際に現場でどの程度有効なのかという検証をしていく必要がありますが、歯科技工士会として災害医療に取り組んでいることのアピールにもなりますから、この活動は非常に良いことだと思っています。
先ほど木下さんが、神奈川県技の震災支援活動をきっかけに7名の方が入会したとおっしゃっていましたが、彼らは「歯科技工士会でこういうことをしたい」と目的意識を持って入会されたわけですよね。それは非常に大きなことだと思います。
木下 この即時義歯作製の講習会を、救急救命セミナーとセットにして、他の県技でも実施できたらいいですね。救急救命についての基礎知識を学ぶとともに、自らの職能を活かした技術を学ぶことができます。災害時に歯科技工士がもっとも貢献できるのは、やはり義歯関係ですから。
吉田 救急救命は2時間のコースでも十分に基礎知識を学べます。また、参加者が5人か10人集まれば消防署の方がすぐに来てくれますから、支部単位でもできると思います。これまでにも実際に多くの県技で生涯研修として実施しました。
今後は、より多くの人に参加してもらえるようにプログラムを工夫することも必要かもしれません。今、木下さんがおっしゃったように、救急救命プラス、歯科技工士ならではのもの、歯の知識を活かせるものを学べるというのは、非常にいいのではないかと思います。
◆災害時に対応できる体制の構築に向けて
吉田 組織として災害対策の体制を整えるためには、冒頭にもお話しましたが、日技会館をどう守るか、そしてそこにいる人をどう守るかということも考える必要があります。
そのためのマニュアルなり行動規範は自分たちでつくれるわけですから、これはすぐにでもつくらなければいけません。誰が一番最初にここに来るのか、非常時に持ち出すものは何か、そうした細かいことも含めて、最初の3日間程度は行政に頼らなくとも自分たちで守れるような体制を整えておく必要があります。そのためには、われわれがJIMTEFで学んだことも役に立つと思います。
大西 職員だけがいる場合、全国から役員や代議員が集まっている場合、あるいは誰もいない休日の場合など、考えられるパターンごとに分けて体制づくりを考えないといけませんね。
木下 例えば西日本で災害が起きた場合、東日本で災害が起きた場合というように、場所ごとに考えておくことも必要かもしれません。東京では首都直下型の恐れも指摘されているわけですし、地震が発生する恐れは日本全国にあるわけですから。
吉田 まずは日技として災害時のマニュアルをしっかり整備すること。そして、歯科技工士一人ひとりが災害に対する基礎知識を学び、それをベースとして専門知識を活かしながらステップアップしていく。そうした積み重ねが大切ですね。
木下 私もせっかく勉強したわけですから、これからその半分でも若い人に伝えていきたいと思います。
―― 災害医療に対する基本的な知識を一人ひとりが学ぶこと。そして組織としては、災害時に対応するための体制を整備するとともに、歯科医師会を始め各団体と連携をしていくということですね。
これらに取り組む上では、災害医療研修コースを受講された皆さんの知識と経験が必要だと思いますので、引き続きご協力のほどよろしくお願いします。本日はありがとうございました。
〜国際医療技術財団の災害医療研修コースを受講して〜
未曾有の大震災であった東日本大震災から2年が経過しました。この間、防災に対する人々の意識は高まり、また社会の動きも早くなっているように思います。東京都では、事業者に対し食料の備蓄等を求める条例が2013年4月より施行されました。日技ではそれらの順守も含め、災害対応マニュアル等を早急に策定すべく、現在、検討を続けています。
今月の特集では、公益財団法人国際医療技術財団が災害医療に関する専門知識を有する医療従事者の育成を目的に実施している「災害医療研修コース」の受講者による座談会を開催し、組織としてはもちろん、歯科技工士個々人がどのように災害対策に取り組んでいけばよいか、活発な意見交換をしていただきました。
出席者
日本歯科技工士会
大西 清支 専務理事
伊集院正俊 常務理事
吉田比呂志 常務理事
西澤 隆廣 理事
神奈川県歯科技工士会
木下 勝喜 常務理事
進行
日本歯科技工士会広報委員会
綾部 一則 副委員長
◆災害医療研修コースを受講して
―― 東日本大震災の発生以降、災害に対する意識が社会全体で高まっていると思います。本日は公益財団法人国際医療技術財団(JIMTEF)の災害医療研修コースを受講された方々による座談会を行い、読者の啓発につなげるとともに、日技が今後、災害対策にどのように取り組んでいけばよいかということについてお話をうかがいたいと思います。
まず始めに国際医療技術財団について、大西専務からご紹介いただけますでしょうか。
大西 国際医療技術財団は、貧困や自然災害などを背景に、今なお世界中の多くの人々が満足な医療サービスを受けることができない状況を改善すべく、保健医療分野の課題解決に必要不可欠な医療技術の振興、医療技術者の育成、医療サービスの改善に取り組んでいる国際協力NGOです。医療系のさまざまな団体の方々が役員を務めており、日技の古橋会長も評議員の一人です。
事業内容としては、研修医の受け入れ、専門家や調査団の派遣、国際医療協力フォーラムや国際セミナーの開催、災害医療研修の実施などを行っており、そのうちの災害医療研修コースについて、昨年度と今年度の2回にわたって本会から3名ずつ派遣し受講したという経緯です。
―― 受講された感想をお聞きしていきたいと思います。まず2011年に開催された第1回災害医療研修コースは、東京都技会長でもある日技の西澤理事、同じく東京都技の石川副会長、神奈川県技の木下常務理事が受講されました。石川副会長は本日、会務のためご欠席ですので、西澤理事と木下常務にお聞きしたいと思います。
西澤 自分たちが災害時にどのような活動ができるかを議論できたことが非常に良かったと思います。
トリアージタグの扱いに関する講義も聞きましたが、われわれ歯科技工士がトリアージタグをつけるかというと、それは現実的には判断が難しいでしょう。東京都技では大規模災害時の即時義歯作製マニュアルをつくり、実技講習会を開催していますが、やはりある程度状況が落ち着いた段階で、義歯をどうするかという問題に関わっていくことが、われわれの一番の役目だと思います。
また、組織論に関する講義も非常に印象に残っています。一日の講習の中でもかなり大きなウエイトを占めているように感じました。日技としても都道府県技としても、非常に有意義な研修でした。
木下 西澤理事がおっしゃるように、歯科技工士がトリアージタグを扱うというのはなかなか難しいと思います。歯科技工士の一番の役割は、やはり義歯をつくるということですから、それは災害時の超急性期よりも急性期以降において特に求められることだと思います。都技が実施している即時義歯作製の実技講習会は私も受講したことがありますが、非常に興味深かったです。
そして亜急性期以降は、現在いくつかの県技で行われている義歯清掃活動が非常に役に立つと思います。私も神奈川県技でこの活動に取り組んでいますが、東北の被災地を訪問した際、避難所で歯ブラシが配られなかったという話を聞きました。「そんなことは後回しだった」と。
その話を聞いたとき、まるで口腔衛生が置き去りにされたかのように感じましたし、もっと近県の方々がこうした活動をできるような体制があれば、もっと良かったのではないかと思いました。
神奈川県技では、助成金や寄付金をいただいたおかげで活動ができたのですが、その資金がなければ被災地に行くこともできなかったわけです。今後は東南海地震の発生も懸念されていますから、西日本をはじめとして多くの県技にこうした活動を広められればと思っています。
日技から情報を広めることで会員一人ひとりに意識付けができたり、あるいは学校教育の中に組み込むことで災害に対し高い意識を持った若者がこの業界に入ってきてくれることで、必要なときにすぐに適切な行動を取れる体制ができるのだと思います。今回、JIMTEFの災害医療研修を受講して、改めてそう感じました。
―― 2012年の第2回災害医療研修コースは、本会の大西専務、伊集院常務、吉田常務が受講されました。受講した感想をそれぞれお聞かせください。
吉田 研修に参加して最初に感じたことは、医科系職種の団体においては、医師や看護師を中心とした災害時派遣医療チーム(DMAT)に対する認識や考え方がかなり進んでおり、まとまりがあったということです。
私は以前から地域の自主防災組織に関わっていまして、DMATを受け入れる立場で防災活動に取り組んでいるのですが、今回の研修に参加した医科系職種の団体は、被災した地域へ複数の職種がチームを組んで出かけて行き、それぞれの職能を生かしつつチームとして支援するということに非常に力を入れています。
一方で歯科業界はというと、われわれ歯科技工士会は当然ながら歯科医師会との連携が前提としてあるわけですが、これまでそうした活動にはあまり参加したことがありませんし、歯科とDMATの関係に対する認識も十分とは言えません。今回の研修を受講して、あらためてそのことを痛感しました。
講習の内容は非常に具体的で、阪神淡路大震災や東日本大震災の現場の中で、災害直後から中期、長期にわたっての活動の状況が報告されました。想像していた以上にレベルが高い内容で、非常に勉強になりました。
そこで感じたのは、災害時医療活動に参加するバックボーンとして、まずは基礎知識を身に付けておく必要があるということです。日技でも現在は生涯研修として、各地域で救急救命の講習会が行われています。多くのところは半日コースで、上級の一日コースを行っている県技はまだ少ないですが、まずは一人ひとりがそうした講習会に参加して、救急救命の基礎知識を学ぶ必要があるでしょう。その上で、このJIMTEFの研修コースなどで災害医療を学び、組織としての体制を構築していくべきだと思います。
さらに、組織としての体制を考える上では、歯科技工士会として行政などからの支援要請にどのように応えていくかということとは別に、災害発生時にこの歯科技工士会館と、そこにいる人をどう守るかということも考える必要があります。
実際に東日本大震災のときは、全国から代議員が集まっていましたし、職員も全員出勤していましたが、あのときは全員、帰してしまいましたよね。しかし現在は、帰宅困難者は無理に帰さないという考え方が主流になっています。そのためには当然、3日分程度の食料や水を備蓄しておかなければいけません。こうしたことにも今後、具体的なマニュアルをつくり、早急に取り組まなければいけないと感じました。
伊集院 多くの医療専門職の方々の活動をお聞きし、また一緒にディスカッションをさせていただいて、とても勉強にもなりました。
一言で災害と言っても、いろいろなケースがあると思います。阪神淡路大震災のように周りの大都市圏からすぐに救援に駆けつけられるケースもあれば、東日本大震災のように広範囲にわたり、しかも放射能という特殊な問題が発生するケースもあります。
そのようなことも踏まえた上で、例えば関東においても30年以内に70%の確率で地震が発生するということがすでに言われているわけですから、組織としてはもちろん、個々人が基本的な知識を真剣に学んでいく必要があるということを、つくづく感じました。
トリアージについても、歯科技工士は他の医療専門職ほどではないにしても、一般の方から見れば医療に近い存在だと思われるかもしれません。そのような方々の中に置かれたら、「歯科技工士はトリアージは関係ない」などとは言っていられなくなるかもしれません。われわれがやらなければいけないこともあるかもしれませんので、そうした知識も勉強しておく必要があるのではないかと感じました。
それから組織論については、これも細かく分けていくといろいろあるのですが、組織として動く際に重要なことを一つひとつ検討して整理していくことで、突発的に発生する災害時に活用することができるのだと思います。
大西 私が参加した第2回目は、11団体、53名の方が受講されていましたが、実際にその中に入って話を聞くと、歯科技工士がこれまでいかにそのような場に関与していなかったかということを痛感させられました。そして、歯科技工士にはどのようなことができるのかということを改めて考えさせられた2日間でした。
しかし、歯科技工士が単独で災害場所に出向いて行ってできることは限られていますので、やはり歯科医師会や歯科衛生士会と連携しながら対応することが重要です。先の東日本大震災の際には、歯科医師会の先生方はご遺体の歯科的所見採取による個人識別によって身元確認に尽力されましたが、われわれ歯科技工士も義歯刻名などを通して貢献できることがあるのではないかと思っています。
これから歯科医師会を中心に、各種団体や病院、学会が集まって、歯科版DMATの構築に向けた協議を進めるという話もあります。そこにわれわれも参画するとともに、組織としての災害対策をしっかりと固めていかなければいけないと考えています。
◆歯科界全体としての支援体制が必要
――日技は今後、災害対策にどのように取り組んでいけばよいか、あるいは歯科技工士一人ひとりに求められることは何か、皆さんのご意見をお聞かせください。
吉田 先ほど言いましたように医科関係はDMATがあり、かなり組織化が進んでいたように感じました。歯科界ではこれから立ち上げに向けた話が進められるそうですので、歯科技工士がどのように関わっていくのか、まずは歯科医師会としっかり話をする必要があります。歯科技工士は単独ではなかなか動きにくい職種ですから、他の歯科専門職と一緒にチームを立ち上げて、その中でわれわれの職能を活かすことが重要です。
また、地域で防災関連の活動をしている方もたくさんいらっしゃると思いますから、その方々が活動できる場をつくっていくということも必要ではないかと思います。
木下 日技の関係者で、JIMTEFの災害医療研修コースを受講したのはわれわれ6人しかいませんから、まずは私も含めて、学んだことを少しでも広めていく意識を持つことが大切だと思います。
例えば各県技で行っている生涯研修の休憩時間に案内をするのもいいと思います。生涯研修には会員だけが来ているわけではありませんから、日技がこういう活動をしているということを周知するのは有効ではないでしょうか。
実際に私が活動していて思うのは、若い人はボランティア活動が好きだということです。好きという言い方が正しいかどうかは分かりませんが、お金がないので汗をかいて誰かのために働きたいという気持ちは強いと思います。
神奈川県技ではイベントのたびに、私が東北の被災地を訪問した際の動画を流して話をするのですが、「今度、東北に行きます」と言うと、2日で定員の40人が埋まってしまうほど意識が高いです。会員ではない人も多いですが、この活動をきっかけに入会した方も7名います。実際に活動することが組織拡充にもつながるのではないかと思います。
ですから、日技がこういう活動に力を入れて取り組んでいるということを周知するのは、業界全体の盛り上がりにつながると思いますし、組織力の強化にもつながっていくのではないかと思うのです。
三重県技では義歯清掃活動を実施されていると思いますが、そうしたことは若い人たちはツイッターやフェイスブックにどんどん載せていきますから、全国にその情報が広まります。そのように広まることで、より良いアイディアも生まれてくると思います。
大西 三重県技では、県内各地で要望のあったところを中心に義歯清掃を行っていまして、神奈川県技と同じように若い方々が率先して参加しています。神奈川県技が被災地を訪問したことにもすぐに反応し、なぜ三重県技は動かないのだという意見をいただいたほどです。
そういう意味では、災害時における歯科技工士の役割を考える上で、今のところは地ならしができているのかなという思いはありますが、いずれにしても単独では動けませんので、やはり歯科医師会の先生方との連携が非常に重要だと思います。
吉田 そうですね。DMATの中にデンタルチームを位置づけるにしろ、歯科版DMATを構築するにしろ、組織化が非常に重要です。
専務がおっしゃったように、歯科技工士は歯科医師との連携が大前提ですから、現状では歯科技工士が単独で医療関係の支援をするのは難しいでしょう。一般の人と同じような立場でボランティアに行くしかありません。そのランクをもう一つ上げて医療従事者として支援できる形にするためには、チームで対応する体制を整える必要があります。
そうすれば、ボランティアの受け入れ先も個人で探すのではなく、組織対組織での対応が可能になるでしょう。日技がボランティアの受け入れ先を紹介できるような体制ができれば、マッチングにも貢献できるかもしれません。
木下 私が最初に東北に行ったときには、コーディネーターは本当に見つかりませんでした。被災3県の歯科医師会や歯科技工士会にも連絡したのですが、その人たちも被災者ですから、まずは自分たちの生活を立て直すことが第一です。そのような状況にあるときに「団体で行く予算もつくったので、受け入れ先がないか探してもらえませんか」と依頼をしても、対応していただくのはなかなか難しかったです。
たまたま民間のマッチングサイトで、仮設住宅を管理しているような方に巡り合えて、「来てください」と言っていただいたので行くことができました。
伊集院 震災から2年がたった今でも、地元の歯科技工士会のような団体がなかなか活動できていないという話を聞きます。まだ避難されていたり、経済的に回っていかなかったりと理由はさまざまだと思いますが、組織としての長期的な支援のあり方を検討する上では、現地の声をいかに集められるかというのは重要なことだと思います。
吉田 ボランティアの方というのはやる気で溢れていますが、ただやみくもに行ってもかえって邪魔になってしまう恐れもあります。2日くらいたてば現地で受け入れ先が組織され始めてきますから、どのように参加するかという形も示してあげる必要がありますね。
木下 ある歯科医師の先生から、道具を背負って行ったけれど受け入れてもらえなくて、結局がれきの処理をして帰ってきたという話を聞いたことがあります。歯科技工士の仲間も、単独で行って受け入れてもらえなかったと言っていました。
2月に都技が行ったときも最初は受け入れ先が見つからなかったそうですので、日技として、そのようなときのためのルートづくりを今からしておくことも必要ではないでしょうか。
例えば、義歯清掃をすることによって誤嚥性肺炎の予防につながるということを、あらかじめ各県行政などに示しておけば、今後、災害が起きた際に避難所や仮設住宅で受け入れてもらえるようになるのではないでしょうか。
大西 その意味では、やはりDMATなり歯科版DMATなりにどう関わっていくかということだと思います。DMATは医科を中心に組織されていますので、歯科医師の先生方が入っているのかどうか分かりませんが、そこにわれわれの技術をPRしていくことも必要かもしれません。
木下 一つの県技だけでは活動できないのであれば、例えばブロックごとであったり、あるいは近隣の数県で災害支援のための体制をつくってもいいかもしれませんね。
西澤 緊急時の体制づくりとしては、歯科技工士会の会員かどうかという垣根はないほうがいいですね。緊急時には非会員の方とも行動をともにするというシステムをつくる。そのように非会員と連携をとることは、有事の際以外でも大きな意義を持つのではないかと思います。
それから義歯清掃についてですが、誤嚥性肺炎は日常でも死亡原因の上位に来ています。医師の先生方も、入れ歯が一つの原因になっており、口腔内の衛生環境を良くすれば改善されるのではないかということも言及されています。
義歯清掃はどこまでの人がやってよいのかというのは微妙なところがありますが、それは絶対に歯科技工士であるべきです。歯科技工士が作った物が汚れたわけですから、それは歯科技工士自身が一番分かります。
ですから、われわれが作った物はわれわれが清掃するのだということを、どんどん発信していった方が良いのではないかと思います。
吉田 ただし、われわれが直接そういう活動をするのは無理がありますから、どうしても歯科医師の先生方と一緒に活動していくことが前提になります。したがって、地域の歯科技工士会と歯科医師会との連携を良い形で保っていくことが重要です。
歯科版DMATの構築についても、歯科医師会や歯科衛生士会との連携が不可欠ですから、ぜひ前向きに進めていってほしいと思います。
木下 早く歯科版のDMATのような組織ができるといいですよね。
吉田 DMATは本当にうまい連携だと思います。作業療法士や柔道整復師も、ボランティアで疲れた方をケアするという役割は非常に有効です。それぞれの役割を考える上で参考になるのではないでしょうか。
歯科業界はかなり遅れていると言わざるを得ません。私自身、この研修に参加して非常に勉強になりましたから、毎年誰かが受講して、災害医療に関する知識を持つ人を増やすことが必要だと思います。
◆基礎知識+歯科技工士ならではの知識
伊集院 いろいろな医療専門職の方と実際に生でディスカッションしてみると、各県技で行われている生涯研修も、こうした形態で行うのも有効なのではないかと思いました。講義を聞いているだけでは、どうしても一方通行になってしまいますから。
吉田 生涯研修などを通して、個々人が災害に対する基礎知識を身に付けておくことは大切ですね。その上で、日技が組織として歯科版DMATなどに参加することになったら、各地域ごとに基礎知識のある方に登録していただく。個々人がベースをつくった上で、組織づくりに参加するということです。
木下 先ほど少し話に出ましたが、東京都技が作成した『大規模災害時の即時義歯作製マニュアル』は全国に広めたいですね。災害時に緊急でつくる義歯は、それほど長い期間もたなくていいわけです。2〜3日の間、支援物資の食料が食べられる程度のものでいいわけですので、それこそ人工歯なしでつくってしまってもいいのではないかと思います。
これはぜひ全国的に広めてほしいです。歯科技工士という職業の魅力を広めることにもなるのではないでしょうか。歯科技工士学校の実習で行うのもいいと思います。
西澤 即時義歯作製の実技講習会は東京都の委託事業として、東京都技の生涯研修で実施しています。東日本大震災もそうですが、その前の阪神淡路大震災のときから、入れ歯をなくして困ったという方が大勢いらっしゃって、即時義歯の重要性が指摘されていました。
そこで、この分野に関する専門知識をお持ちの、東京医科歯科大学大学院の中久木康一先生にご協力いただいてマニュアルをつくり、さらに実技講習会を年に3回開催しています。
この即時義歯は非常に簡単で、講習会を1回受講すれば誰でもすぐに作れるようになります。今後は実際に現場でどの程度有効なのかという検証をしていく必要がありますが、歯科技工士会として災害医療に取り組んでいることのアピールにもなりますから、この活動は非常に良いことだと思っています。
先ほど木下さんが、神奈川県技の震災支援活動をきっかけに7名の方が入会したとおっしゃっていましたが、彼らは「歯科技工士会でこういうことをしたい」と目的意識を持って入会されたわけですよね。それは非常に大きなことだと思います。
木下 この即時義歯作製の講習会を、救急救命セミナーとセットにして、他の県技でも実施できたらいいですね。救急救命についての基礎知識を学ぶとともに、自らの職能を活かした技術を学ぶことができます。災害時に歯科技工士がもっとも貢献できるのは、やはり義歯関係ですから。
吉田 救急救命は2時間のコースでも十分に基礎知識を学べます。また、参加者が5人か10人集まれば消防署の方がすぐに来てくれますから、支部単位でもできると思います。これまでにも実際に多くの県技で生涯研修として実施しました。
今後は、より多くの人に参加してもらえるようにプログラムを工夫することも必要かもしれません。今、木下さんがおっしゃったように、救急救命プラス、歯科技工士ならではのもの、歯の知識を活かせるものを学べるというのは、非常にいいのではないかと思います。
◆災害時に対応できる体制の構築に向けて
吉田 組織として災害対策の体制を整えるためには、冒頭にもお話しましたが、日技会館をどう守るか、そしてそこにいる人をどう守るかということも考える必要があります。
そのためのマニュアルなり行動規範は自分たちでつくれるわけですから、これはすぐにでもつくらなければいけません。誰が一番最初にここに来るのか、非常時に持ち出すものは何か、そうした細かいことも含めて、最初の3日間程度は行政に頼らなくとも自分たちで守れるような体制を整えておく必要があります。そのためには、われわれがJIMTEFで学んだことも役に立つと思います。
大西 職員だけがいる場合、全国から役員や代議員が集まっている場合、あるいは誰もいない休日の場合など、考えられるパターンごとに分けて体制づくりを考えないといけませんね。
木下 例えば西日本で災害が起きた場合、東日本で災害が起きた場合というように、場所ごとに考えておくことも必要かもしれません。東京では首都直下型の恐れも指摘されているわけですし、地震が発生する恐れは日本全国にあるわけですから。
吉田 まずは日技として災害時のマニュアルをしっかり整備すること。そして、歯科技工士一人ひとりが災害に対する基礎知識を学び、それをベースとして専門知識を活かしながらステップアップしていく。そうした積み重ねが大切ですね。
木下 私もせっかく勉強したわけですから、これからその半分でも若い人に伝えていきたいと思います。
―― 災害医療に対する基本的な知識を一人ひとりが学ぶこと。そして組織としては、災害時に対応するための体制を整備するとともに、歯科医師会を始め各団体と連携をしていくということですね。
これらに取り組む上では、災害医療研修コースを受講された皆さんの知識と経験が必要だと思いますので、引き続きご協力のほどよろしくお願いします。本日はありがとうございました。